次々と新しいWebマーケティング手法が開発され、マーケティング効率化の潮流に乗って普及しています。そんな中で改めてリレーションシップマーケティングの重要性が指摘されています。ここではリレーションシップマーケティングの特徴・メリットと実施法を解説します。
リレーションシップマーケティングの目的
リレーションシップマーケティング(Relationship marketingː関係性マーケティング)とは、既存顧客と良好な関係を構築して優良顧客に育て、長期的なリピーターになってもらうマーケティング概念です。
この概念の根底には「パレートの法則(全体の20%の要素が成果全体の80%を生み出している)」があると言われています。この法則をマーケティング的に解釈すると「20%の優良顧客が売上全体の80%に貢献している」になります。
新規顧客を開拓するには時間と労力とコストがかかります。しかし既存顧客との関係性を強めて優良顧客になってもらう分には、新規顧客開拓ほどの手間暇・コストはかかりません。また新規顧客から得られる売上と優良顧客から得られる売上では収益性が格段に違います。
そこでリレーションシップマーケティングの目的は、LTV(Life Time Value:顧客の生涯価値)の増大による収益の最大化にあるとされています。
リレーションシップマーケティングの重要性
今日、リレーションシップ マーケティングが重要な理由として「インターネットの普及とWebマーケティングの進化」が挙げられます。
インターネットが本格的に普及する前の1990年代前半まで、顧客との関係性を構築する方法は会員誌・DM郵送、顧客向けイベント開催、観劇会招待などに限られ、コストもかかっていました。
それがインターネットの普及と回線の高速化に連れてECサイト、コーポレートサイト、販促サイト、情報ポータルサイト、リクルートサイトなどが次々と開発・開設され、これらのサイトを活用したWebマーケティングが急速に進化しました。この進化は、顧客との関係性構築を低コストで可能にするものでした。
ところがWebマーケティングの活用は今のところ、マーケティング活動の効率化や見込み客の集客に主眼が置かれています。Webマーケティングで見込み客を集客しやすくなったと言うことは、同じマーケティング活動を行っている競合も集客しやすい訳です。早い話が、Webの世界でも見込み客の奪い合いをしていることになります。
このためWebマーケティングでは見込み客の集客は言うまでもなく、「既存顧客との関係性を強めて収益を最大化する」マーケティング活動も重要になっています。
リレーションシップマーケティングが生まれた背景
企業と顧客の関係性についてのマーケティング概念は1970年代に欧米で芽生えました。この概念を理論化し、1983年に「リレーションシップマーケティング」として提唱したのが米国のマーケティング研究者レナード・ベリー教授でした。
この背景には米国のサービス産業の台頭がありました。サービス産業が成長するに連れて米国のマーケティング研究者の間でリピーター の重要性が認識され、顧客満足度、顧客維持、顧客との関係性などの研究が進みました。
そんな中でベリー教授は「マーケティングは見込み客を発掘するだけではなく、既存顧客を維持することも重要であり、最終的には企業と顧客の信頼関係を通じて双方の長期的な利益を向上させることが重要だ」と考え、リレーションシップマーケティングの概念を提唱したのでした。
その後この概念に共鳴した様々な研究者やマーケターにより実践的研究が続けられ、発展してきました。
リレーションシップマーケティングの研究が発展した要因として、次が挙げられています。
(1)市場の成熟化……市場の成熟化による競争激化により、新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持に比べ5倍かかると言われている。このため既存顧客の維持を図る方が効率的と考えられるようになった。
(2)優良顧客の収益貢献度……パレートの法則、収益要因の分析などから優良顧客が企業の利益の大部分に貢献している事実が明確になり、企業にとって優良顧客との関係維持が大きな課題になった
(3)製品ライフサイクルの短縮化……製品ライフサイクルの短縮化により、これまで以上に商品やブランドを競合他社のそれに乗り換えるユーザが増加した。このため既存顧客のロイヤルティを高める施策が重要になっている
(4)サービス産業の課題……サービス産業においては顧客との良好な関係がないと、事業成長はもとより継続すら困難な時代になってきた
リレーションシップマーケティングの特徴とメリット
リレーションシップマーケティングは特定のマーケティング手法ではありません。
インバウンドマーケティング、コンテンツマーケティング、SNSマーケティング、アカウントベースドマーケティング、One to Oneマーケティングなど様々なマーケティング手法が組み合わされて展開されるマーケティングの概念であり、様々なマーケティング手法の機能横断的なマーケティング活動と言えます。
つまり従来の様々なマーケティング手法を組み合わせ、リレーションシップマーケティングがハブあるいはフレームワークとなって既存顧客の囲い込み、既存顧客との良好な関係醸成、顧客ロイヤルティ向上など推進する活動が、リレーションシップマーケティングの特徴です。
既存顧客に対するマーケティング活動は、重要度が一見低いように見えます。しかし「1:5の法則」(新規顧客から売上を得るコストは既存顧客から売り上げを得るコストの5倍)や「5:25の法則」(顧客離れを5%防げば利益が25%増加)もあるように、収益拡大を図る上において極めて重要な活動と言えます。
なお、リレーションシップマーケティングのメリットとして、
- 顧客のリピート購買率上昇と顧客離れの低下……優良顧客を獲得すればリピート購買率が上昇し、商品購入の満足感も高いため顧客離れが低下する
- 顧客単価の上昇……優良顧客を獲得すれば顧客の年間平均購買額や1回当たりの購買金額が増加するので、顧客単価が上昇する。また顧客単価が上昇すれば、少ない顧客数でも収益拡大が可能になる
- 顧客生涯価値の高まり……リピート購買率上昇、顧客単価の上昇により顧客生涯価値が高まる
などが挙げられます。
リレーションシップマーケティングの実施法
リレーションシップマーケティングを展開する場合は、BtoB事業かBtoC事業か、既存顧客の属性やロイヤルティレベルなど自社の事業特性と、既存顧客からの収益目標を指針に、先に述べたインバウンドマーケティングを始めとするマーケティング手法を適宜組み合せたフレームワークにより実施します。
リレーションシップマーケティングの施策としては、
- アンケート調査や顧客モニタリングによる自社商品に対する顧客の満足レベル把握と商品改良やアフターフォロー改善への反映
- SNSやメルマガ活用による顧客との関係性深耕……お役立ち情報の定期配信、イベント招待、特典付与など
- 顧客コミュニティサイトの運営や顧客自主企画イベント等の支援
- カスタマーサポート部門の充実と機能強化
などが挙げられます。
また顧客との良好な関係作りのツールとしては、次が挙げられます。
- CRM(顧客関係性管理)……顧客情報の収集・データベース化により顧客の取引・購買履歴を時系列で管理するツール
- Webサポート……SNSでの情報発信、メルマガ配信、チャットでの顧客サポートなどを管理するツール
- 電話サポート……コールセンターでの顧客アフターフォロー。肉声でのコミュニケーションなので、顧客に「困った時は頼りになる」との安心感を与える効果がある
- 営業社員の直接サポート……BtoBビジネスの場合、取引先との長期的な関係性維持が欠かせないので、ツールではなく生身の人間を介したサポートが重要になる
まとめ
現在、マーケティングと言うとインバウンドマーケティングを始めとする様々なソフトウエアツールを駆使した活動を想起しがちです。しかし「企業と顧客の信頼関係を通じて双方の長期的な利益を向上させる」を目的とするリレーションシップマーケティングにおいては、「企業と顧客の人間関係」が何よりも重要になります。
その意味でリレーションシップマーケティングは、Webマーケティングの効率性と精度追求と、体温を感じさせる生臭くて泥臭さの2つを併せ持つマーケティング活動と言えるでしょう。