現在のデジタルマーケティングにおいては、「モーメント」が極めて重要な要素を占めています。モーメントを掴まなければデジタルマーケティングの効果を十分発揮できないからです。ここではモーメントの正体と、デジタルマーケティングの活用法を解説します。
モーメントとは
「モーメント」とは、ユーザの購買行動の中で、ユーザが「商品を求める瞬間」のデータのこと。
モーメントはUX(User e Xperienceː 顧客体験)の基礎データであり、このデータの収集・分析によりユーザ目線のマーケティングが可能と言われています。
モーメントの種類
ひと口に「モーメント」と言っても、専門家によりその捉え方は様々です。現在は次の6種類がモーメントとされています。
(1)マイクロモーメント
Googleが定義したモーメントです。
同社はユーザが商品を「知りたい」、「買いたい」などの購買行動を起こす瞬間を「モーメント」としています。
(2)ZMOT(Zero Moment of Truth)
これもGoogleが「0番目の真実の瞬間」として定義したモーメントです。
こちらはユーザが実店舗へ買物にゆく前段階で、すでに購入の意思決定をしているとの仮説に基づいています。ユーザが商品情報をネット検索した結果、購買意思を決定した瞬間をモーメントとしています。
(3)FMOT(First Moment of Truth)
P&G社が定義したモーメントです。
同社はユーザが実店舗で商品を購入する際、その可否を3―7秒かけて判断する「最初の真実の瞬間」をモーメントとしています。
(4)SMOT(Second Moment of Truth)
これもP&G社が定義したモーメントです。
同社はユーザが商品を購入後、使い心地や満足感などのUXから再度その商品を購入するかどうかを決定する「二番目の真実の瞬間」をリピート購入のモーメントとしています。
(5)TMOT(Third Moment of Truth)
こちらもP&G社が定義したモーメントです。
同社はユーザが購入した商品のリピーターになり、何度も反復購入しているうちに愛着が湧き、その商品の愛用者になる「三番目の真実の瞬間」を商品愛用のモーメントとしています。
(6)トリガーモーメント
電通が定義したモーメントです。
同社は(1)から(5)までのモーメントの中で「購入意思のトリガー(引き金)になったモーメント」があるはずと考え、ユーザがその「トリガーを引いた瞬間」を最も重要なモーメントとしています。
例えばある30代前半の男性会社員がUSV(スポーツ用多目的車)を買い替えるため、USVの比較サイトやメーカーサイトのネットサーフィンで情報を集めていた時点では新車購入資金の調達は念頭にありませんでした。しかし3日後、A社のUSV購入を決めた時点で資金調達の必要性に思いが至り、自動車ローンの比較サイトを閲覧した場合、このサイト閲覧がトリガーモーメントになります。
モーメントが重視される理由
モーメントが重視されるのは、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末の普及が背景です。
従来のデジタルマーケティングとモーメントを活用したデジタルマーケティングの違いは、属性データよりも購買行動データを重視しているところにあります。
従来のマーケティングでは「30代男性、会社員、世帯年収○○万円、既婚、子供2人」と言った程度の属性情報しか収集できませんでした。どんなペルソナが自社商品の主力ユーザなのかはある程度推測できますが、その具体的な購買行動把握は困難で、推定するしかありませんでした。
しかしモバイル端末の普及によりユーザの購買行動のトラッキングが可能になり、状況は一変。ユーザがどのような接点で自社商品を認知し、どの接点で自社商品を購入したのかなどの行動を、推定ではなく事実として把握できるようになりました。
その結果、
- 同一プロセスを経て商品購入をするユーザのボリュームはどれぐらいなのか
- マーケターが想定していた購買行動と実際の購買行動の違いは何か
なども分析できるようになり、マーケターはモーメントの捕捉が可能になりました。
さらにモーメントを活用してマーケティングを行っている企業と、従来通り属性データを頼りにマーケティングを行っている企業との間に、明らかなマーケティング成果の差が生じるようになりました。早くからモーメントを活用している企業は、その活用ノウハウの蓄積で属性データ頼りの企業との差もどんどん広げています。
モーメントがデジタルマーケティングで重視される理由と言えます。
モーメントをマーケティングに活用するには
モーメントのマーケティング活用は、マイクロモーメントが他の種類より汎用性が高く、活用も容易なことから、多くの企業で活用されています。
マイクロモーメントの構成要素
マイクロモーメントは次の4つのモーメントで構成されています。
- 知りたい(I want to know)……ユーザが何かを「知りたい」と思った瞬間に行動するモーメント
- 行きたい(I want to go)……ユーザがどこかに「行きたい」と思い、その場所を探す瞬間のモーメント
- したい(I want to do)……ユーザが何かをしたいと思い、その方法を調べる瞬間のモーメント
- 買いたい(I want to buy)……ユーザに欲しいものがあり、それを購入しようと思う瞬間のモーメント
マイクロモーメントを捉える方法
マイクロモーメントを捉える方法として、一般に次が挙げられます。
(1)スマートフォンの検索キーワードを測定する
生産年齢人口の80%から90%強がスマートフォンを保有している時代です(総務省「平成30年通信利用動向調査」)。ユーザの大半は「知りたい、行きたい、したい」時の一次情報は、移動中等の隙間時間にスマートフォンでネット検索します。そしてスマートフォンで検索するキーワードの多くが、マイクロモーメントと紐づいています。
そこで自社事業に関係するキーワードの検索ボリュームを測定し、ユーザがどんな商品や利便性を求めているのかを「知りたい、行きたい、したい」のマイクロモーメントに則して分類すると、マイクロモノトーンの捕捉が可能になります。
(2)ユーザの疑問を調査する
ユーザの購買行動を探る手立ての1つが「疑問」です。ユーザは疑問を抱いた時、「○○とは、方法、理由」などの検索キーワードで情報を集め、疑問を解こうとします。
そこで自社事業に関連するこれらのキーワードを調査すると、マイクロモーメントの捕捉が可能になります。
(3)カスタマージャーニーから購買行動を分析する
カスタマージャーニー(ユーザの商品認知から購入までのプロセス)の分析からも、マイクロモノトーンの把握が可能になります。
ユーザの「知りたい、行きたい、したい、買いたい」の4つの行動が、カスマージャーニーのどの段階で発生しているのかを突き止めると、マイクロモーメントの補足が可能になります。
マイクロモーメントをマーケティングに活用するポイント
マイクロモーメントをマーケティングに活用するには、次の手順を踏む必要があります。
手順1 見極める
ユーザのマイクロモーメントを捉えた後は、
- いつ……季節、月、曜日、時間帯
- どこで…商圏や立地
- 何を……どんな検索キーワードが使われているのか、購買ファネルによって検索キーワード変わるのか変わらないのか
- なぜ……どのような情報を得るために検索しているのか
見極める必要があります。
手順2 届ける
ユーザのマイクロモーメントを見極めたら、ユーザが求めている情報を届ける必要があります。ユーザに届けるべき情報は、
- 何かを「知りたい」
- 不満や問題を「解決したい」
- どこかへ「行きたい」
- 何かを「買いたい」
- アイデアを「得たい」
などの動機を満たす情報です。
手順3 測定する
ユーザへ情報を届けたら、その効果の測定が不可欠です。
モバイル端末ユーザの購買行動は、情報検索から購入までモバイル端末の中で一気通貫に完結する訳ではありません。例えばスマートフォンで情報を検索してパソコンで購入するなど、複数の端末を使い分けるユーザが一般化しています。
したがって届けた情報の効果測定精度を上げるためには、端末を跨いだユーザの購買行動を数値として把握する必要があります。
まとめ
商品には購入前から購入後まで、いくつものモーメントが潜んでいます。こうしたモーメントを正確に「見極める」、それに適した情報を「届ける」、その効果を的確に「測定する」のPDCA回しが、モーメントをマーケティングに活用するコツと言えます。
地道なPDCA回しの経験の積重ねに比例し、デジタルマーケティングの効果が上がってゆくでしょう。