Googleは2020年1月、Webプラウザ「Chrome」におけるサードパーティクッキーのサポートを「2022年までに段階的に廃止する」と発表。Webサイト関係者の中でも特にWeb広告主、サイト運営者、Web販促関係者などに衝撃を与えました。ここでは衝撃の理由、影響、廃止対応策などを解説します。
そもそもクッキーとは
本論に入る前に、「クッキーとは」のおさらいを簡単しておきます。
クッキーとは、Webサイトにアクセスしたユーザのデータを一時的に保存しておくと共に、そのユーザを識別する仕組みのこと。具体的にはサイトへログインしたユーザのIDデータ保存することにより、そのユーザが再び同じサイトへアクセスした時に、IDデータを入力する手間を省く働きをしています。
クッキーの種類
クッキーは次の2種類に分かれています。
■ファーストパーティクッキー
ユーザがアクセスしたサイトのドメインから発行されるクッキーです。
再アクセスした時のログイン入力省略、通販サイトの商品カートに買物を入れたままユーザがサイトを離脱した際のカート保管などの働きをしています。
クッキーはそれぞれのWebサイトが独自に発行しているので、サイト運営者は他のサイトのトラッキングはできません。
■サードパーティクッキー
ユーザがアクセスしたサイト以外のドメインから発行されるクッキーです。基本的にユーザがアクセスしたサイトのWeb広告をクリックした時、広告配信元のドメインから発行されます。
複数のWebサイトやWebプラウザを横断してクッキーを発行できるので、アフリエイト広告の成果計測や追跡型のリターゲティング広告配信などに用いられています。
クッキーの利用法
クッキーの利用法として一般に次が挙げられます。
(1)ECサイトのデータ保存
ユーザがECサイトで入力したログインデータやカートに入っている買物データを保存できます。
買物途中でECサイトを離脱しても、再アクセスした時にログイン状態が続いているのも、カートに入れた商品がそのままの状態になっているのも、クッキーの働きです。
(2)フォーム画面のデータ保存
ユーザがWebページのフォーム画面で入力したデータを保存できます。
ユーザがフォーム画面でメールアドレスやパスワード、年齢などを入力しようとすると、以前入力したデータが候補としてフォーム画面に表示されるのは、クッキーの働きです。
(3)広告の最適化
サードパーティクッキーの働きにより、広告の最適化を図るアフリエイト広告、ターゲティング広告、リターゲティング広告などが可能になっています。
サードパーティクッキー廃止の理由
Googleはサードパーティクッキー廃止の理由を「サードパーティクッキーがプライバシー保護の観点から問題視されているから」と説明しています。
サードパーティクッキーは複数サイトを横断したトラッキングが可能なので、広告をクリックしたユーザに合わせてパーソナライズした広告を配信してゆく上では、不可欠の仕組みになっています。一方でユーザは、自分自身の個人データがどこでどのように利用されているかの把握がほぼ不可能です。
このユーザ側の問題がユーザの不安となって噴出し、Googleが規制に舵を切る前に「Safari」、「Firefox」などのブラウザが、サードパーティクッキーを排除する機能を搭載するようになっていました。
この他、EUでは「クッキー法」と呼ばれる「ePrivacy規則」の制定準備が進んでいます。
日本でも朝日新聞デジタルが「公正取引委員会がクッキー規制の検討に入った」と2019年10月30日付で報道しています。
サードパーティクッキー廃止の影響
2021年1月現在、日本国内で30―50%台、ワールドワイドで40―60%台とWebプラウザのトップシェアを占めるChromeのサードパーティクッキー廃止は、Webサイト関係者に衝撃を与えました。このなかで直接的な影響を受ける関係者としてサイト運営者と広告主が考えられます。具体的にはどのような影響を受ける可能性があるのでしょうか。
サイト運営者への影響
サイト運営者への影響として考えられるのが、まずアフリエイト広告の成果計測です。
この計測はアフリエイト広告をクリックしたクッキーを基に、ASP(アフリエイトサービスプロバイダ)が行い、成果連動型の報酬をアフリエイター(アフリエイト広告を掲載しているサイト運営者)に支払っています。
それがクッキー廃止になれば、現在の方法で計測ができなくなり、アフリエイターは本来得られた報酬を得られなくなる恐れがあります。
次がコンバージョン計測です。
例えば、リスティング広告(検索連動型広告)からリンク先のWebサイトAへ流入し、サイトAでユーザがコンバージョンした場合は、クッキーがなくてもコンバージョンの計測は可能です。
しかしリスティング広告からリンク先のWebサイトAへ流入し、ユーザがサイトAでコンバージョンせずに一旦離脱し、複数サイトをネットサーフィンした後に再びサイトAへ戻ってきて、サイトAでコンバージョンした場合はクッキーがなければコンバージョンの計測は不可能です。
クッキーがなければ今のところ、ユーザがどのような経路を辿ってサイトAでコンバージョンしたのかのデータがないからです。クッキー廃止により、自社サイトのコンバージョン数を高める改善指標の1つを失う可能性があります。
広告主への影響
広告主への影響として考えられるのがリターゲティング広告です。
リターゲティング広告は、ユーザが一度クリックしたWeb広告のクッキーを基に、そのユーザに関連広告を配信する仕組みです。
そこで大半の広告主は現在、同一ユーザが他のサイトでクリックした広告のトラッキングデータの分析に基づき、リターゲティング広告を配信しています。
それがクッキー廃止になればトラッキングデータを収集できなくなる訳で、リターゲティング広告ができなくなる可能性があります。
サードパーティクッキー廃止への対応策
サードパーティクッキー廃止により、最も大きな影響を被ると懸念されているのがリターゲティング広告だと言われています。
リターゲティング広告は元々、Webサイトへの初回アクセスで資料請求や商品購入のコンバージョンをするユーザが非常に少ないため、
- 初回アクセスした時に見た広告を思い出してもらう
- 初回アクセスしたユーザとの接点を増やす
などを目的に開発された広告手法です。
ならばリターゲティング広告の視点をちょっと変え、
- サイトの広告掲載ページの見えやすい位置に「問合せボタン」を設置する
- 問合せボタンの入力項目を減らす、入力が1ページ以内で完了するように設計する、スマートフォンのような小画面でも入力負担を感じさせない工夫をする、などでユーザの入力ストレスを防止する
- WebサイトとSNSに広告を同時配信する
などのクッキー廃止対応策をすれば、初回アクセス時のコンバージョン数を上げられる可能が見えてきます。この対応策はサイトの好感度向上にも繋がる可能性があります。
もちろん当初は絵に描いた餅になるかも知れませんが、改善を重ね経験を積み重ねることで、その餅を本物に大化けさせる可能性が無きにしも非ずと言えるところです。
まとめ
米国やEUの動向を見ていると、サードパーティクッキー規制強化の流れは変えられないようです。したがって今後は、クッキーに頼らないユーザ管理技術の開発、Web広告手法の開発などがWebサイト運営者、広告主、広告プラットフォーム運営者などの喫緊の課題になるものと思われます。
「ピンチはチャンス」と言います。クッキー廃止のピンチを知恵と工夫で乗り越えることにより、Webサイトはよりユーザフレンドリーなサイトに生まれ変わる可能性があるでしょう。Web広告もまた、ユーザの個人情報保護に関してより透明性・安全性が高い広告に生まれ変わることにより、広告訴求効果が従来以上に強まる可能性があるでしょう。
いつの時代も潮流の変化はポジティブに捉えたいものです。