新型コロナ禍下の厳しい経営環境に苦しむ中堅・中小企業の間で注目されている国の経営支援補助金制度があります。それが「事業再構築補助金制度」です。ここでは同制度の概要と、認定経営支援機関の役割並びに選び方を解説します。
事業再構築補助金制度とは
事業再構築補助金制度とは、新分野展開、業態転換、事業再編などの事業再構築を試みる中堅・中小企業の支援を通じて日本経済の構造転換促進を目的とした、国の戦略的補助金制度です。
事業再構築補助金制度の申請要件
同制度の適用を受けるには、経済産業省が求める次の3要件を満たす必要があります。
- 売上が減っている……2020年4月以降の6カ月間のうち、任意の3カ月間の合計売上高が新型コロナ禍以前の同3カ月間の合計売上高と比較して10%以上減少しており、2020年10月以降の6カ月間のうち、任意の3カ月間の合計売上高が新型コロナ以前の同3か月間の合計売上高と比較して5%以上減少していること
- 事業再構築に取り組む……事業再構築指針に沿った事業再構築を行うこと
- 認定経営革新等支援機関と一緒に事業計画を策定する……事業再構築に係る事業計画を認定経営革新等支援機関と一緒に策定し、補助額が3000万円を超える案件の場合は金融機関も参加して策定すること。また補助事業終了後3―5年で付加価値額の年率平均3.0%以上増加または従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上増加の達成を見込む事業計画を策定すること
認定経営革新等支援機関とは
認定経営革新等支援機関とは、中堅・中小企業の経営支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、国の認定を受けた個人・法人(税理士、税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関など)のことです。
同制度の補助額・補助率
これは次の5枠に分かれています。
(1)通常枠
補助額は100万円超8000万円未満、補助率は中堅企業ː1/2(4000万円超は1/3)、中小企業ː2/3(6000万円超は1/2)。
(2)卒業枠・グローバルV字回復枠
卒業枠とは400社限定の補助制度で、事業計画期間内に①組織再編、②新規設備投資、③グローバル展開のいずれかにより資本金または従業員を増やし、中小企業から中堅・大企業へ成長する中小企業向けの特別枠です。
グローバルV字回復枠とは100社限定の補助金制度で、売上高が15%以上減少しており、グローバル展開を果たす事業を通じて付加価値額年率5.0%以上増加を達成してV字回復を果たす事業者向けの特別枠です。
卒業枠の補助額は6000万円超1億円未満、補助率は2/3。グローバルV字回復枠の補助額は8000万円超1億円未満、補助率は1/2。
(3)大規模賃金引上額
100人以上の従業員を雇用しながら継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させる中小企業等を対象とした補助枠です。
対象事業者の要件は、
- 補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3―5年の事業計画期間終了までの間、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げること
- 補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3―5年の事業計画期間終了までの間、従業員数を年率平均1.5%以上増員すること
となっており、補助額は8000万円超1億円未満、補助率は中堅企業ː1/2(4000万円超は1/3)、中小企業ː2/3(6000万円超は1/2)。
(4)緊急事態宣言特別枠
2021年の緊急事態宣言により深刻な影響を受けた中堅・中小企業の特別枠です。
補助額は100万円超1500万円未満、補助率は中堅企業ː2/3、中小企業ː3/4)。
(5)最低賃金枠
最低賃金引上げの原資確保が困難な中堅・中小企業等を対象とした補助枠です。
対象事業者の要件は、
- 2020年10月から2021年6月までの間で、3カ月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員数の10%以上いること
- 2020年4月以降のいずれかの月の売上高が対前年または前々年の同月比で30%以上減少していること
となっており、補助額は100万円超1500万円未満、補助率は中堅企業ː2/3、中小企業ː3/4)。
なお、同制度の第3回公募は2021年9月21日に締め切られており、次の第4回公募は2021年10月上旬開始、11月下旬締切りと予想されています。
認定経営革新等支援機関の役割
認定経営革新等支援機関(以下認定支援機関)の役割は、中堅・中小企業が国の補助金制度適用を受けるための手続き並びに事業再構築推進の指導です。
認定支援機関は、具体的には次の業務を行います。
事業計画書作成の指導
事業再構築補助金制度に基づく事業再構築は新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、事業再編の5類型があり、各類型に前述の5枠が絡んでくるので、事業再構築5類型の要件は大変複雑です。
このため事業者単独での事業再構築計画書の作成はほぼ不可能と言われ、事業計画書作成と行政書類作成の両方に精通した専門家の指導が不可欠になっています。
そこで認定支援機関は、事業再構築計画書の作成においては
- 事業者から事業内容のヒアリングと会計書類の精査を行い、事業再構築の合理性、事業再構築後の市場性と競合分析、事業再構築を推進できる事業者の経営体力などの把握を行う
- 例えば新分野展開の場合は製品等の新規性要件、市場の新規性要件、売上高10%要件、売上高構成比の補助金申請要件満たしているか否かの確認を行う
- 事業者の実情と国の要件を具体的な事業再構築計画へ落とし込んだ事業計画書作成を指導する
- 当該事業再構築計画書添付書類の作成を指導する
などの業務を行います。
「確認書」の作成
事業再構築補助金制度適用の申請は、事業者自ら電子申請で行います。申請時に事業再構築計画書と添付書類約10点をアップロードしなければなりません。この添付書類の中に「確認書」があります。
確認書の記載項目は認定支援機関の名称・代表者名、補助金申請事業者名、事業再構築の成果目標達成が可能と見込まれる理由など約10項目あり、これは認定支援機関自ら作成しなければなりません。
認定支援機関の報酬と契約期間
認定支援機関の報酬は法定ではなく任意なので、認定支援機関ごとに異なります。
認定支援業務のすべてを「着手金+成功報酬」制にしている機関、認定支援の各業務をすべてオプション報酬制にしている機関など様々です。
ただ認定支援の報酬全額は5―30万円で設定している機関が多く、相場は20万円前後と言われています。また認定支援の成功報酬は、補助金額の15%が相場と言われています。
契約期間は事業再構築認定支援開始から当該事業の終了まで続くので、4―6年になるようです。
認定支援機関の選び方
認定支援機関は、事業者が自社の事業再構築を円滑に推進するためのパートナーになります。言わば事業再構築推進の参謀です。したがって次の3点を基準に選ぶ必要があります。
事業計画書作成と行政書類作成の両方に精通し、その指導経験も豊富
事業計画書は事業再構築補助金の審査で最重要視される書類です。認定支援機関は公認会計士、税理士、中小企業診断士などの士業が大半を占めています。この経営分野の士業は職業柄行政書類の作成・指導には長けています。だからと言って事業計画書の作成・指導にも長けているとは限りません。認定支援を依頼する場合は、この点の確認が重要です。
自社の事業所近くにある認定支援機関
事業再構築推進中は認定支援機関との相談や打合せが頻繁に発生します。最近はこれらをメール、チャット、Skype.などのツールで行うケースが増えていますが、やはりリアル面談を行わなければ的確な認識共有や微妙なニュアンスのコミュニケーションが困難です。自社の事業所近くの支援機関ならリアル面談の利便性が高くなります。
業歴が長い法人事務所
事業再構築推進期間は4―6年の長期にわたります。このため業歴が浅い個人事務所の場合は、認定支援機関側の様々な事情で長期的なパートナー関係を保てないリスクがあります。
まとめ
事業再構築補助金は高額なので企業にとっては魅力的な制度と言えます。しかし制約や要件が多く、申請手続きも複雑なので、採択合格のハードルが高いのが特徴です。また、
- 採択合格後の報告書類に不備があった場合は自社のダメージが大きい……採択後に導入した設備等が否認される、補助金振込後に補助金の全額返金を要求されるなど
- 給付金と異なり書類や事業報告書に正確性・透明性が求められ、提出書類作成に時間とコストがかかる
などのリスクもあるようです。したがって事業再構築補助金制度の利用においては、経営指導力と採択実績が高い認定支援機関をパートナーに選ぶ必要があるでしょう。