建設業には元請けから下請け、孫請けと続く建設業界特有のピラミッド型受注構造があります。この構造下で収益を上げるためには元請け受注をいかにして獲得するかが重要です。そこで中小建設会社の間で注目されているのが、元請け受注拡大を可能にする「Webマーケティング」と言われています。ここではその全体像を解説します。
建設業の集客でWebマーケティングが重要性を増している理由
Webマーケティングとは、Webサイトを中心にした集客、ブランディング、商品販売などの販促活動のことです。
建設業でWebマーケティングが重要性を増しているのは、下請け・孫請け事業からの脱却にあります。
建設業界における元請けの大半はゼネコン、ハウスメーカーなどです。しかし実際に現場で建設工事を担うのは下請け・孫請けの立場にある地場の中小建設会社や工務店です。この業界構造下での下請け・孫請けの営業活動は、元請けの協力会社として下請け・孫請け案件を獲得する「協力営業」に頼らざるを得なくなっています。
協力会社になることにより、安定的に案件を確保できる面はありますが、下請け・孫請け案件は収益の低さが問題です。この問題を解決する手段が、下請け・孫請けが上部との協力関係に頼らず、自ら元請け案件を獲得するWebマーケティングの活用です。
Webマーケティングの活用によるWebサイト運営は、上部との協力関係に頼らない元請け案件の開拓を可能にしてくれます。
建設業におけるWebマーケティングのメリット
建設業におけるWebマーケティングのメリットとして、一般に次が挙げられます。
(1)Webサイト運営により自社の社会的信用が高まる
現在の産業においては、BtoB事業の場合はオンライン取引が主流です。BtoC事業の場合はユーザがWebサイトにアクセスして商品情報を収集し、購買意思を決定する時代です。このためWebサイトを運営していない会社はオンライン取引ができず、会社としての信用も低下します。一般消費者からも「Webサイトがない会社は選択外」として信用されません。
(2)顕在見込み客の集客が容易になる
例えば建築工事の依頼先や建売住宅を探している見込み客は、Google検索で、
- 「注文住宅 東京・北区」
- 「建売住宅 東京・北区」
などの検索キーワードで候補となる建築会社をピックアップします。したがってWebサイトは顕在見込み客の集客にも効果的と言えます。
(3)営業コストを削減できる
現在の一般的な建設工事受注の流れは、
(1)見込み客がGoogle検索で建設会社のWebサイトにアクセス。会社の事業規模、許認可取得工事の種類、施工実績などにより工事依頼先候補をピックアップ
(2)候補を絞り込んだ会社にメールで見積依頼
(3)見込み客が建設会社の営業社員と面談。工期、保証、アフターフォローなどを確認した後、工事費の条件交渉をする
(4)条件が折り合えば成約
この流れの中で、(1)と(2)の営業活動をWebサイトがしてくれることになり、新規顧客開拓の営業コスト削減が可能になります。
Webマーケティングによる集客の手順
建設業のWebマーケティングによる集客は、基本的に次の手順で行います。
(1)Webサイト運営の目的を明確化する
Webマーケティングによる集客においては、まずWebサイト運営の目的を明確化する必要があります。建設業の場合の目的の明確化は注文住宅、賃貸集合住宅、住宅リフォームなど自社が得意とする事業領域の「ターゲットユーザ」の明確化になります。
次に自社商圏のターゲットユーザ層を年代、職業、家族構成、ライフスタイルなどに基づき、ターゲットの具体像である「ペルソナ」を設定します。
そして「3C分析」、「「SWOT分析」などにより、同業他社との差別化を図り、ペルソナに自社を選んでもらうための営業戦略を策定します。
(2)集客目標を決める
営業戦略を決めたら、Webサイトの集客目標を設定します。
Webサイトの集客目標は、そのロードマップとなるKGI(Key Goal Indicatorː重要目標達成指標)と、そのプロセス目標となるKPI(Key Performance Indicatorː重要業績評価指標)により設定します。
KGIとKPIの設定により、集客の測定と集客効果の分析も可能になります。
(3)Webサイトで集客する
集客を目的としたWebサイトにおいては、見込み客が会社選びの判断材料となる、
- 経営理念
- トップメッセージ
- 会社概要
- 会社沿革
- 施工実績
などの情報提供が不可欠です。
Webマーケティングによる集客のポイント
Webマーケティングによる集客に成功するためには、次の事項に留意する必要があります。
(1)SEO対策
自社Webサイトに一人でも多くのターゲットユーザにアクセスしてもらうためには、Googleキーワード検索結果の上位に表示させる必要があります。このために重要なのが「SEO(検索エンジン最適化)対策」です。
SEO対策とは、ユーザが欲しい情報を得るために検索したキーワードに合致したコンテンツを上位表示させる対策のことです。
具体的には、GoogleのWebサイト品質評価基準を満たした「コンテンツ」、Googleの検索エンジンに自社サイト内のコンテンツを正確かつ迅速に伝えるための「内部対策」、他のサイトから有益な情報として評価されてリンクしてもらう「被リンク対策」などです。
これらの対策の中でのキーポイントがコンテンツとされています。
そのコンテンツとは、
- Expertise(専門性)……Webサイトで公開しているコンテンツが「特定分野に特化しているか」
- Authoritativeness(権威性)……第三者から見て「有益性のあるコンテンツか」
- Trustworthiness(信頼性)……コンテンツの中身が「ユーザにとって信頼できる情報か」
の3要件をクリアしたコンテンツです。
これ以外のコンテンツは、検索結果の上位に表示される可能性は著しく低く、ターゲットユーザに自社Webサイトにアクセスしてもらえるチャンスは極めて少なくなります。
(2)ランディングページ
ランディングページとは、自社サイトにアクセスしたユーザが最初に閲覧するWebページのことです。またユーザが知りたい情報の概要と問合せ、資料請求、見積依頼などのコンバージョンを1ページで簡潔にまとめた独立ページでもあります。
ランディングページを設けることで、
- ページ移動によるユーザのサイト離脱を最小化できる
- ユーザが知りたい情報をコンパクトに伝え、もっと詳細な情報を知りたいとの知的好奇心を刺激する
- 理想的な順番で情報を伝えられる
- したがってコンバージョン獲得の確率が高い
などが可能になります。
(3)ポジショニングメディア
ポジショニングメディアとは、ユーザが建設会社を選ぶ際の基準、建設会社を選ぶための知識、建設着工する際のユーザ側の諸手続き、建設資金調達法などを解説した集客目的のWebページのことです。
ポジショニングページを設けることで、建設業界における自社の強み・魅力・施工技術・アフターフォローの高さをアピールし、どんな特性のユーザが自社を選ぶべきなのかをアピールできます。
このためユーザはどの会社建設工事を依頼すれば良いかが明確になり、依頼を前提にした営業社員との面談意欲が高まります。建設会社側も自社が受注したい案件の成約率が高まります。
ポジショニングメディアがない状態でのWebサイト集客では、ユーザ・建設会社の双方が、
- ユーザは何社もの建設会社のWebサイトにアクセスして情報収集をしなければならない
- Webサイトの情報提供形態が建設会社によりまちまちなので比較しにくく、建設会社選びのミスマッチが発生しやすい
- 建設会社側はユーザの情報集の問合せ処理に忙殺される一方、成約見込み案件獲得率が低い
- 建設会社側は自社の強み・魅力・施工技術の高さをユーザにアピールできないので価格競争に巻き込まれやすい
などの状況に晒されます。
まとめ
Webマーケティングによる集客は、下請け・孫請け事業からの脱却を可能にするほか、建設業界特有の営業社員の属人性による「ニッパチ営業」から組織的なチーム営業への脱却も可能にします。これにより建設会社は精度の高い売上計画に基づく収益性の高い事業展開が可能になります。自社の認知度や信用が高まるので、社員のモチベーションも上がるでしょう。