営業関係者が押さえておきたいコンテンツマーケティングのポイントːPart1

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近年、営業関係者の間で「コンテンツマーケティング」がよく話題になります。しかしその内容はウエブ広告、SNS情報発信、SEO対策など人によりコンテンツマーケティングの認識は様々です。では営業関係者が知っておきたいコンテンツマーケティングの正体と、そのポイントは何でしょうか。

コンテンツマーケティングとは

コンテンツマーケティングとは、消費者にとって有益あるいは価値のある情報の提供を通じて消費者のニーズを刺激・醸成し、購買経験を通じて自社商品の固定客として囲い込むことを目的としたマーケティングの概念であり、手法のこと。

これを米国のコンテンツマーケティング研究所は「コンテンツマーケティングとは、価値と一貫性のあるコンテンツを作成し、その提供を主眼とした戦略的なマーケティングの考え方である。情報提供を通じて見込客として定義した読者と自社の信頼関係を構築し、最終的には自社の利益に繋がる行動促進を目的とする」(要旨)と定義しています。

つまりコンテンツマーケティングは、従来のマス広告のように自社商品を見込み客にアピールしたり売り込んだりするのではなく、見込み客にとって有益な情報・価値のある情報の提供により自社商品への関心度を高め、購買行動を起こさせ、その満足経験により固定客を増やすマーケティングの概念であり、手法と言えます。

ところでコンテンツマーケティングと混同したり、それと同じ意味で語られがちなのが「コンテンツSEO」と言えます。

コンテンツSEOとは、良質なコンテンツを作成して検索結果の上位表示を目指すSEO(検索エンジン最適化)手法です。

これはコンテンツに対する検索エンジンの評価基準や評価指標が変化した結果、従来の検索キーワード適合単語、被リンク数などで対応していたSEO対策の効果が薄れてきたために生まれた手法と言えます。

またコンテンツSEOの目的は検索結果の上位表示によるアクセス数の増加が目的です。対してコンテンツマーケティングの目的は、非認知ユーザ層から顕在ユーザ層まで段階的にユーザとの良好な関係性を構築し、最終的にユーザを自社の固定客にするところにあります。この目的においてもコンテンツマーケティングとコンテンツSEOは明らかに異なります。

なお、両者の違いをウエブマーケティングの枠組みの中で捉えると、コンテンツマーケティング領域とSEO領域が重複する小さな領域が「コンテンツSEOの領域になる」と説明すれば、読者の方々はイメージしやすいでしょうか。

コンテンツマーケティングの目的とそれが重要な理由

コンテンツマーケティングの目的

コンテンツマーケティングの目的は3つあります。その違いは自社商品に対するユーザ層の違いに起因します。

(1)非認知ユーザ層の場合

非認知ユーザ層は、自社が取り扱っている商品ジャンルに対し漠然とした関心はあるものの購買意欲はなく、自社名や自社商品をまったく知らないユーザ層です。この層に対しては、まず自社商品が取り扱っている商品ジャンルへの関心度を高めてもらうのがコンテンツマーケティングの目的になります。

(2)潜在ユーザ層の場合

潜在ユーザ層は、自社商品に対して漠然とした関心がある程度で、自社商品の知識はほとんどないユーザ層です。この層に対しては自社が取り扱っている商品ジャンルに対する利便性、価値、コストパフォーマンなどの知識をエビデンスに基づき提供し、購買意欲が湧いたら商品ジャンルの中で自社商品を真っ先に想起してもらうのがコンテンツマーケティングの目的になります。

(3)顕在ユーザ層の場合

顕在ユーザ層は自社商品の購買意欲を持っているユーザ層です。この層に対しては競合商品に対する優位性(安全性、スペックの高さ、独自性など)や購入事例(擬似購入体験)に関する情報を提供し、購買を決断させるのがコンテンツマーケティングの目的になります。さらに購入後の満足度とアフターサービスによる自社への信頼感により、固定客化することも目的になります。

コンテンツマーケティングが重要な理由

コンテンツマーケティングが重要な理由は、企業の販促活動とユーザの消費行動の変化にあります。

まず企業の販促活動においては、一般消費者を対象にしたtoCビジネスの場合、テレビCM、新聞広告、新聞折り込みなどのマス広告、あるいはテレアポで見込み客を発掘し、心理学的話法の「セールストーク」で購入を促す従来のアウトバウンドセールスが効果を発揮しにくい時代になってきています。

テレビや新聞を見ない消費者が年々増加してマス広告の効果が低下し、テレアポに至っては迷惑電話や詐欺電話への警戒心から非通知のテレコールを無視する消費者が増えているためです。

企業間取引を対象にしたtoBビジネスにおいても「一人でも多くの見込み客と名刺交換をする」、「用がなくても見込み客を訪問して売込みチャンスを掴む」などのアウトバウンドセールスは、「本来業務が中断される」と見込み客から嫌われるようになっています。「御用聞き営業の時代はもう終わった」とも言われています。

この結果、企業は販促活動の根本的な見直しが必要になってきています。

次にユーザの消費行動においては、各種の消費動向調査で次の変化が明らかになっています。

(1) 情報接触機会の飛躍的増大

インターネットの普及によりユーザの情報接触機会が飛躍的に増大しました。今や「情報洪水の時代」とも言われています。しかし情報接触量がいくら増大しても一人のユーザが消費できる情報量は昔も今もほとんど変わりません。その結果、毎日大量に提供される情報の中から、ユーザは「自分の興味・関心のある情報」を選択して接触し、情報欲を満たす傾向が加速しています。

(2)購買意思の受動的決定から能動的決定への変化

かつてのtoCビジネスにおいては、多くの場合ユーザは企業が発信したマス広告、店頭に置かれた商品パンフレットやPOP広告などで知った商品情報に基づき購買の意思決定をしていました。toBビジネスにおいては営業社員からの商品情報提供、各種展示会で提供される商品情報などに基づき購買の意思決定をしていました。

しかし今は両者ともインターネット検索で能動的に集めた商品情報、比較情報、口コミ情報などに基づき購買の意思決定をするユーザが年々増加しています。

(3)購買するきっかけの変化

toCビジネスにおいては、マス広告が全盛だった時代は有名人やその道の権威と言われるパーソンの評価や推奨が、多くの場合その商品を購買するきっかけになっていました。

しかしSNSが普及した今日、友人、知人、あるいは自分が信頼できるとして選んだインフルエンサーなどがSNS上で発信した「いいね」の情報に共感し、それを「自分ごと」と意識したことがきっかけとなり、その商品を購買するユーザが増えています。

このように販促活動の見直しとユーザの消費行動の変化が、コンテンツマーケティングの重要度を高めているようです。

コンテンツマーケティングの特徴と注意点

コンテンツマーケティングの主な特徴として次が挙げられます。

  • コンテンツ発信の費用対効果が高い

コンテンツマーケティングにおいては、一度制作したコンテンツは知的財産として社内に蓄積できます。蓄積したコンテンツはその情報価値や鮮度を失わない限り何度でも再利用できます。またコンテンツが増えれば増えるほど、潜在・顕在ユーザ層との接点が広がります。この蓄積効果と接点拡大効果により、従来のマス広告に比べコンテンツ制作・発信の費用対効果が高いと言われています。

(2)自社ブランド・商品に対するロイヤルティの高いユーザを獲得できる

コンテンツマーケティングにおけるコンテンツ発信は、ユーザにとって有益で価値のある情報を提供することで、自社に対する潜在・顕在ユーザ層のロイヤルティを高めることが可能です。ロイヤルティが高いユーザが多い商品は、価格競争に巻き込まれるリスク低下に繋がります。

(3)発信したコンテンツをユーザが拡散してくれる

有益で価値のある情報はユーザの共感を得やすく、それが動機となってその情報をユーザが口コミサイトやSNSで拡散してくれる可能性が高まります。

なおコンテンツマーケティング展開の注意点として、即効性を期待できないことが挙げられます。有益で価値がある良質なコンテンツの制作と蓄積には時間がかかります。コンテンツマーケティングの展開に際しては緻密なマーケティング戦略に基づく計画性が何よりも重要と言えます。

コンテンツの発信形態と媒体

コンテンツマーケティングで発信されるコンテンツは多彩です。その主な発信形態として次が挙げられます。

(1)ブログ

主に潜在ユーザ層を対象に、自社商品情報やその関連ジャンルのコンテンツを、文字と画像で編集したブログ(コラム記事)として発信する形態です。最近は動画記事の発信も増えています。ブログとして取り上げるテーマはユーザの知識欲を満たす商品活用のノウハウ、ユーザが直面している課題解決策、商品活用の擬似体験ができる「商品活用事例」などが一般的です。

(2)メールマガジン

主に顕在ユーザ層と自社の良好な関係を深める目的のコンテンツを発信する形態です。コンテンツの内容は自社商品に関するキャンペーン情報・セミナー案内、新商品情報、自社商品活用事例などが一般的です。ユーザに「もっと詳しく知りたい」と思わせ、自社サービスサイトに誘導する狙いもあります。

(3)SNS

主にスマートフォン等モバイル端末を持ち歩いている顕在ユーザ層を対象にしたコンテンツを発信する形態です。自社商品の優位性や購入事例のさわりを発信することで、「いいね」と思ったユーザに周囲への情報拡散効果が期待できます。これにより非認知ユーザ層を潜在ユーザ層に、潜在ユーザ層を顕在ユーザ層に浮上させられる可能性があります。

(4)プレスリリース

主に潜在ユーザ層を対象に自社の経営・事業に関わるコンテンツを発信する形態です。

プレスリリースは一般に情報の信頼性が高いので、自社ブランド・商品に対する潜在ユーザ層のロイヤルティを高める効果があると言われています。インターネット普及前は新聞・テレビのマス媒体を介した間接的な情報発信しかできませんでした。今はウエブ配信サービスによりユーザへ情報を直接発信できるので、自社ブランドの認知度を高めるためのコンテンツとしても利用されています。

(5)ホワイトペーパー

主にtoBビジネスの潜在・顕在ユーザ層を対象に自社関連の市場・業界動向、商品トレンド、市場調査レポートなどのコンテンツを発信する形態です。コンテンツの客観性と信憑性が高いので、ホワイトペーパーも自社ブランド・商品に対するユーザのロイヤルティを高める効果があると言われています。

(6)ウエブセミナー

主に顕在ユーザ層を対象に自社商品の販促コンテンツをセミナー形式で発信する形態です。インターネット上でコンテンツを発信できるので、従来のリアルな集合型セミナーに比べ集客力が強いと言われています。

なお拡散されやすいコンテンツとして、一般に次が挙げられます。

  • 社員のボランティア活動等ユーザの感動を呼ぶ自社の社会貢献活動関連のコンテンツ
  • データに基づく自社関連商品ランキング、自社商品ジャンルのトレンド・比較・ハウツーなどをまとめたコンテンツ
  • 自社と関連のある話題・流行を取り扱ったコンテンツ
  • 自社の働き方改革、新型コロナ対策など社会問題を取り扱ったコンテンツ
  • 「住むなら戸建て住宅か賃貸マンションか」、「サテライトオフィスと自宅、どっちがオンライン勤務しやすい?」など、自社関連関連の二者択一式テーマで知識欲を刺激するコンテンツ

一方、コンテンツの発信媒体は、基本的に次の3つに大別されます。

  • オウンドメディア

自社が運営するウエブ媒体です。自社オリジナルのコンテンツ発信により、潜在ユーザ層との接点獲得、ブランディング構築などを目的に運用されるのが一般的です。

  • ペイドメディア

有料のコンテンツ発信媒体です。一般にはウエブ・リアル両方の広告媒体を指します。オウンドメディアのみでは接触できない非認知ユーザ層へのアプローチに効果があると言われています。

  • アーンドメディア

SNS、個人ブログ、口コミサイトなどユーザが情報発信するための媒体です。コンテンツマーケティングでは主に自社商品がどのように評価され、どのような動機・理由で購買されているのかなどをモニタリングするツールとして利用されています。

コンテンツの浸透においては、単一媒体だけの発信ではなく3つの媒体を複合的に活用すれば浸透力が強まると言われています。

コンテンツマーケティングにおけるコンテンツ制作手順と効果測定

コンテンの制作手順

コンテンツマーケティングの展開においては、まず、

  • 有益で価値のあるコンテンツの制作と蓄積
  • コンテンツ発信によるユーザの育成――非認知、潜在、顕在の各ユーザ層との関係性構築

が重要になります。

そして有益で価値のあるコンテンツの制作は一般に次の手順で進めます。

(1)ペルソナの設定

コンテンツの発信対象をマス広告のように「群」ではなく「個人」にするための「ペルソナ」を設定する必要があります。対象を個別の人物像に絞り込むことで、以降の手順がスムーズになります。

(2)発信するコンテンツの明確化

ペルソナを設定したら、そのペルソナはどのような事柄に興味や関心を示し、共感するのかを探り、ペルソナとの関係性を築きやすいコンテンツを明確化します。

(3)コンテンツ発信の順番を決める

「誰に」、「何を」のコンテンツが決まったら、次にそのコンテンツを適切なタイミングで発信する順番を決めます。順位付けのないコンテンツ発信は、対象者にスルーされる要因になります。またペルソナの行動は時系列により変わるので、順番は「点」ではなく「線」で決める必要があります。

(4)コンテンツ発信媒体を決める

ペルソナ、コンテンツの内容、コンテンツの発信形態などにより、それに適した発信媒体が変わってきます。オウンドメディアのみの発信で良いのか、他のメディアと組み合わせるのかなど、「発信効果」を探りながら決める必要があります。

コンテンツマーケティングの効果測定

コンテンツマーケティングの効果については、マス広告のような即効性がないので「ROI(投資効果)の測定ができない」とよく言われます。これがネックとなり、コンテンツマーケティング展開に踏み切れない企業もあると言われています。

しかし、コンテンツマーケティングには財務分析的な投資効果測定法はないものの、次の指標の適切な組合せによりかなり正確な投資効果測定が可能です。

(1)売上貢献度

売上貢献度

この指標を測定する場合は、コンテンツマーケティングとの関係性が明確と判断できる売上だけでなく、商品購買に繋がった売上効果も測定します。この測定は自社のコンテンツと接触したユーザの消費行動分析、自社商品との接触履歴を解析するアトリビューション分析、ユーザへのアンケート調査結果などの解析で可能です。

(2)見込み客獲得数

自社コンテンツに関するSNSのフォロー数、メールマガジン登録数、資料ダウンロード数などの分析から見込み客獲得数を推測でき、そこから将来的な売上予測が可能です。

(3)エンゲージメント率

デジタルマーケテイングの効果測定に用いられているエンゲージメント率の応用で、コンテンツマーケティングの効果測定も可能です。

(4)ユーザとの接点獲得評価

PV(ページビュー)、UU(ユニークユーザー)、動画再生数などの分析によりユーザとの接点獲得評価ができ、これを投資効果測定に援用できます。

まとめ

コンテンツマーケティングおいては多彩なコンテンツ発信形態、複数媒体の連携利用、これらを活用したクロスマーケティングによるユーザ接点の拡大などが可能で、従来のマスマーケティング手法では得られない効果があります。

しかしコンテンツマーケティングを展開するためにはマスマーケティング以上の時間・コストを要するケースがあり、コンテンツマーケティングに詳しいコンサルティング会社の協力も必要です。コンテンツマーケティングに失敗した企業の大半は、即効性のあるマスマーケティングと同じ感覚でコンテンツマーケティングを展開した結果、時間・コストの負担に耐えられず、コンテンツマーケティングに詳しいコンサルティング会社も見つけられず、1年足らずで中止したことが原因と言われています。

コンテンツマーケティングに成功するためには長期的なマーケティング計画、資金計画、コンテンツマーケティングに詳しいコンサルティング会社確保の3要件が欠かせないようです。