マーケターが見たシニアの情報収集と購買行動

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人口の高齢化によりシニア市場が拡大しています。その市場規模は2025年に101.3兆円と予測されており、「シニアマーケティング」の重要性が高まっています。ここではシニアの価値観とライフスタイル、情報収集活動と購買行動に焦点を合わせ、シニアマーケティングのポイントを解説します。

拡大するシニア市場

内閣府の『令和3年版高齢社会白書』によると2020年10月1日現在、65歳上の高齢者人口は3619万人。高齢化率は28.8%です。高齢化率は今後、2025年に30.0%、2035年に32.8%、2045年に36.8%と予測されています。

高齢者人口の拡大に伴い、「シニア市場」も拡大しています。例えばみずほコーポレート銀行産業調査部の『シニア産業の2025年の見通し』によると、2007年に62.9兆円だった市場規模は2025年に101.3兆円に拡大(対2007年比61.0パ増)と予測されています。

2025年の市場規模の内訳は医療・医薬産業ː35.0兆円、介護産業ː15.2兆円、生活産業ː51.1兆円となっています。

全体の50.4%を占める生活産業は、食品、外食、ガーデニング、インテリア、家事サービス、衣服、カルチャースクール、文化施設、趣味・レジャー、旅行など。医療・医薬産業や介護産業と異なり、生活産業に関わる業種は広範囲です。

生活産業には多くの企業が携わっています。シニアマーケティングの重要性が高まっています。

一筋縄ではゆかないシニアの多様な価値観とライフスタイル

シニアマーケティングにおいても、真っ先に必要になるのが「シニアのペルソナ」です。シニアのペルソナ設定においては、属性はある程度共通しているのでマーケターが把握すべきは価値観とライフスタイルと言えます。

従来の概念では「孫の成長を楽しみに生きる」、「身体的な衰えがあるので購買行動は消極的」など、守勢的な価値観やライフスタイルが一般的でした。ところが現在のシニアの価値観とライフスタイルは、従来の概念を覆すほど多様化ししています。

まず価値観に関しては、例えばひと研究所エイジングラボが「行動が積極的か控え目か」、「志向が伝統的・保守的な傾向か変化や刺激を好む傾向か」の2つを軸に、次の6タイプに分類しています。

(1)アクティブトラッド……悠々自適のタイプ。資産も時間もあるので購買行動は積極的だが、伝統的な家族観が強い。旧来の「アクティブシニア」のイメージに近い

 (2)ラブ・マイライフ……アンチエイジング意識が強いタイプ。新し物好きで情報通、流行にも敏感。「新型アクティブシニア」の1つ。

 (3)社会派インディペンデント……人との繋がりを大切にするタイプ。新しい人脈作りや世代を超えた交流にも意欲的。「新型アクティブシニア」の1つ

 (4)淡々コンサバ……現在の生活に満足しているタイプ。強い主張を持たず、日々淡々と平穏に暮らしている。旧来の「高齢者」イメージに近い。

 (5)身の丈リアリスト……「金がかかるからできない」の諦めを口にするタイプ。それ相応の貯蓄があるが、将来不安から購買行動は消極的

 (6)セカンドライフモラトリアム……「社会に取り残されるのでは」との不安感が強いタイプタイプ。行動が慎重なのでこれからの人生をどう過ごしたらよいのかと模索している

次にライフスタイルに関しては、例えば「日本元気シニア総研」が「健康と金」を基準に、次の8タイプに分類しています。

(1)プレミアムシニア……1億円以上の資産を保有し、健康状態は普通

(2)スポーティブシニア……保有資産が多く元気に活動

 (3)エンジョイライフシニア……趣味やグルメなどを楽しみながら生活

 (4)悠々在宅シニア……自宅に閉じこもり人との接触・会話をあまりしない

 (5)アクティブシニア……仕事や社会貢献活動などで活躍し、生涯現役を続ける

 (6)リーズナブルシニア……保有資産や年金が少ないが、生活は活動的

 (7)ぎりぎり生活シニア……ぎりぎりの生活を余儀なくされている

 (8)要介護シニア……在宅介護や介護施設で生活をしている

シニアマーケティングに苦戦しているマーケターの多くは、こうしたシニアの価値観とライフスタイルを考慮せず、従来の概念でシニアを十把一絡げにしたペルソナ設定をしているのが理由と見られています。

インターネットを駆使するシニアの情報収集

総務省の『平成30年通信利用動向調査結果』によると、60代のインターネット利用は76.6%、70代のそれは51.0%になっており、シニアの半数以上がインターネットで情報収集をしています。

ではシニアはインターネットでどんな情報を収集しているのかですが、総務省の『情報通信白書平成27年版によれば、「仕事や研究について」が68.5%、「健康や医療について」が73.3%、「商品の内容や評判について」が74.8%、「趣味や娯楽について」が74.3%など。

シニアの情報収集も従来の新聞・テレビからネットへの移行が窺えます。

モデル化できないシニアの購買行動

大和ネクスト銀行が2019年11月に実施したアンケート調査『シニアライフ」に関する意識調査』によると、「シニアが今年楽しんだこと」は旅行ː69.7%、スポーツ観戦ː65.4%、嗜好品ː38.0%、ドラマ鑑賞ː30.9%、読書ː28.5%など。

こうしたシニアの購買行動に関し、ウエブ電通報の「いま改めて『シニア・マーケティング』を考える」は、「買い物に関する意識や行動には価値観の違いが多く表れている」と述べ、次の見解を示しています。

(1)悠々自適のアクティブトラッド……メーカーやブランドへのこだわりがあり、商品を買う場所も百貨店や正規代理店と、「安心感・安全性」が担保されている店を選ぶ傾向があり、衝動買いはあまりしない

(2)流行に敏感なラブ・マイライフ……欲しいと思ったらあまり躊躇せずに買う。新しいものや人とは違うものを好み、有名ブランドや「限定モノ」、「流行モノ」にはつい手が出てしまい、衝動買いが多い

(3)社会派インディペンデント……購買行動はラブ・マイライフと正反対。ブランド物や流行には興味を示さず、衝動買いとは最も縁遠い。しかし「環境に良い」、「社会貢献になる」などの商品には敏感に反応する。買い物の嗜好もまさに「社会派」

(4)マイペースで暮らす身の丈リアリスト……通販の利用率が高く、利用頻度・利用金額とも多い。このタイプは煩わしさを嫌うので、買い物に行く手間が省け、自分の好きな時間に買い物ができる通販はうってつけの買い物手段だと思われる

(5)「社会に取り残されるのでは」との不安感が強いセカンドライフモラトリアム……ラブ・マイライフに次いで衝動買いが多い。商品選択眼に自信はないようで、自分が選んだ商品の周囲の評判を気にし、「みんなが持っているものは良いものだ」と考えるなどフォロワー意識が強い。

なお、上記見解にはありませんが、「現在の生活に満足している淡々コンサバ」は、買物意識のスコアが他のタイプに比べ低いことから、購買行動はあらゆる商品に対して消極的と推察されます。

このようにシニアの購買行動も多様で、従来の年齢層別や購入商品別、チャネル別などのモデル化ではペルソナを設定できず、マーケティングのポイントを絞れないのが特徴と言えます。

シニアの購買行動を促すには

ではシニアは、具体的にどんな商品に食指を動かすのでしょうか。これに関する興味深い調査データが、大手市場調査会社インテージの調査レポート「生活者360°Viewer」の「シニア層の消費意識」と言えます。

同調査によると、

  • 気に入った商品は長く買い続ける:71.4%
  • ものを買う時は価格に見合う価値があるか吟味するː65.2%
  • ブランドに関わらず自分が気に入ったモノが最高ː63.7%
  • 話題性があっても品質の裏打ちがなければ買わないː58.9%

などの意識が高く、一般的な消費者意識によく見られる、

  • クチコミで評判のものに弱いː20.6%
  • プレミアム品に弱いː20.3%
  • CM、雑誌などでよく見かけるとつい買ってしまうː11.5%
  • 機能よりデザインを重視するː11.4%

などの意識が低い傾向が見られます。

この調査レポートから、シニアの購買行動を促す商品は、基本的に「見栄えが良くて新機能盛り沢山の商品より、基本機能と品質が担保されていて長く使える商品」、「ブランドより自分の価値観に合った商品」と言えそうです。

まとめ

以上みてきたようにシニアの価値観、ライフスタイル、購買行動は他の年齢層より多様で、個別化しています。したがってシニアマーケティングにおいては、他の年齢層以上に綿密な商品ニーズ、価値観・ライフスタイルなどの調査に基づき、パーソナライズ化したペルソナを設定する必要があります。そしてペルソナに適した商品訴求をするためには、マーケターの洞察力と創造性が求められると言えそうです。