生産年齢人口減少の影響もあり、優秀な人材確保が困難化している企業の人材採用活動。そんな中で近年注目されているのが「オウンドメディアリクルーティング」です。ここではオウンドメディアリクルーティングの仕組み、実施手順などを解説します。
オウンドメディアリクルーティングとは
オウンドメディアリクルーティングとは、「求人検索エンジンのGoogle」と呼ばれるIndeedが開発した新しい人材採用手法です。
具体的には自社自ら求人情報サイトを開設し、運営する仕組みです。イメージ的には企業が従来から行っているコーポレートサイト内の「人材採用ホームページ」と言えます。
従来の求人活動は、求人情報サイトや人材紹介会社が用意した募集要項に必要事項を記入し、この情報を「求人情報」として公開する仕組みです。
しかしこの仕組みでは、求人企業の事業・特徴・魅力、同業他社との違いが見えず、採用ミスマッチ(求職者側の)が起こりやすい問題がありました。これが求職者の早期離職、求人側採用部門の労働生産性低下などの要因になっていました。
一方、求職者にとって現在の人手不足環境は就職・転職先探しが選り取り見取りです。求人情報媒体は地域特定のフリーペーパーやポスティングを含めると優に300点を超えると見られています。この求人情報媒体花盛り状態が、求職者の「選社眼」を鋭くする要因になっています。
このため求職者が「この会社なら自分がやりたい仕事ができそうだ」、「この会社に入社すれば自己成長できそうだ」などの求人情報を発信しなければ、「自社が欲しい人材確保」が困難な状況になっています。
この状況を解決するため、IndeedがWeb集客を目的にしたオウンドメディア手法を人材採用手法に応用して開発したのがオウンドメディアリクルーティングと言われています。
オウンドメディアリクルーティングは、就職・転職先探しに目が肥えた優秀な求職者を採用するための仕組みと言えるでしょう。
オウンドメディアリクルーティングの仕組み
オウンドメディアリクルーティングは、
- 自社が欲しい人材と出会うための情報発信「ジョブディスクリプション」
- その人材から自社が選ばれるための情報発信「シェアードバリューコンテンツ」
の2軸をセットで、自社サイトから求人情報を発信するのが基本的な仕組みです。
ジョブディスクリプション
ジョブディスクリプションとは「職務記述書」のことです。
職務記述書とは、職種や職位ごとに社員が担当する職務内容、責任と権限、必要なスキルなどを明記した人事管理書類のことです。ゼネラリストやプレイングマネージャーの採用が一般的で、入社後も配属先や職務内容がコロコロ変わるケースが多い日本企業では、馴染みのない書類と言えます。しかし欧米企業では職務記述書が人材採用や人事評価の基準になっています。
日本一般的な求人情報である「募集要項」には簡単な職務内容、勤務地・勤務時間、給与などが記載されているだけなので、入社後はどんな業務を担当させられるのかが不明です。これも採用ミスマッチ要因の1つになっています。
そこでオウンドメディアリクルーティングにおいては、ジョブディスクリプションを求職者に公開することにより、
- 自社が欲しい人材と出会うための機会増加
- 求職者とのマッチング精度向上
を図っています。
ジョブディスクリプションでは、一般に下記の情報を公開します。
- 職務内容、職務の目的、職務の目標
- 職務の責任と権限の範囲
- 職務上の関わりを持つ社内外の部署、会社
- 職務上必要なスキル
- 資格、経験、学歴などの採用条件
シェアードバリューコンテンツ
シェアードバリューコンテンツとは、求職者に自社の企業理念と企業文化を伝えるためのコンテンツです。求職者と求人企業の「価値観の共有とベクトルの一致」が目的とされています。
シェアードバリューコンテンツは「パーパスコンテンツ」と「カルチャーコンテンツ」の2つで構成されています。いずれも「欲しい人材から自社が選ばれるための情報発信」をするためのコンテンツです。
そこでパーパスコンテンツには、
- 自社は何のために事業活動をしているのか
- 自社が取り組んでいる社会貢献活動
- トップの経営哲学
- 社員の行動基準
など企業理念に関する情報で構成されます。
一方、カルチャーコンテンツは求職者に自社の企業文化、社風、風通し、行動規範、自社で活躍している社員の具体像など伝えるためのコンテンツです。
そこでカルチャーコンテンツは、
- 経営意思決定のルール
- 人事評価制度とキャリアパス
- カフェテリアプラン等福利厚生制度
- 研修・自己啓発・資格取得支援制度
- サークル活動
- オフィス環境
- 社内行事(社員旅行、周年イベント、etc)
- など自社の労働環境に関する情報で構成されます。
オウンドメディアリクルーティングの実施手順
オウンドメディアリクルーティングの実施は、基本的に次の手順で行います。
手順1:「欲しい人材」の明確化とペルソナ設定
自社で活躍して欲しい人材の資質、スキル、責任と権限などを明確化し、その具体像をペルソナとして設定します。これによりどんな求職者に自社オウンドメディアリクルーティングサイトにアクセスしてもらいたいのか、その求職者を引き付ける検索キーワードは何かなどが明らかになり、ジョブディスクリプション作成事項も決まってきます。
そのためには求人を必要とする部署が担っている業務内容の洗出しが重要です。
手順2:自社の魅力の洗出し
手順1で設定したペルソナを基準に、自社の魅力、強み・弱み、社会的存在価値、業界内のポジションなどを洗い出します。
手順3:ジョブディスクリプションにヒットしやすい検索キーワード設定
作成したジョブディスクリプションにヒットしやすい検索キーワードを設定することにより、自社が欲しい人材がオウンドメディアリクルーティングサイトにアクセスしてくる確率が高まります。
手順4:シェアードバリューコンテンツの制作
シェアードバリューコンテンツは「ペルソナが魅力を感じる視点」を想定して制作します。
パーパスコンテンツは、
- 創業者や現在のトップの生の声を求職者に伝える
- コンテンツを箇条書きではなく、起承転結のあるストーリーにする
- 自社の成長過程を画像とトピックスで構成する
などが制作のポイントです。
またカルチャーコンテンツは、
- 社内各部署の各職位の社員インタビューを掲載し、自社の魅力を総合的に伝える
- 福利厚生・キャリアパス・研修制度などを多面的に紹介する
- サークル活動の魅力やメリットを社員の生の声で紹介する
- 自社の沿革や事業成長過程をインフォグラフィックスで表現する
などが制作のポイントです。
手順5:オウンドメディアリクルーティングサイトの開設とSNS投稿などとの連携
オウンドメディアリクルーティングサイトを開設しただけでは、ペルソナに設定した人材がアクセスしてくれるとは限らず、アクセス回数も知れています。
このため同サイトの認知度を高める対策が必要になります。そこで、
- 自社アカウントのSNS投稿
- 求人情報サイトへの求人情報出稿
- 求人情報サイトや人材紹介会社主催の人材採用イベント参加
などで自社オウンドメディアリクルーティングサイトへ、ペルソナに設定した人材を誘導する対策が重要になります。
まとめ
オウンドメディアリクルーティングには人材採用ミスマッチの解消、就職・転職市場における自社認知度の向上、人材採用ノウハウの蓄積など様々なメリットがあります。
このメリットを活かすには、「○○年度人材採用計画」に則った目先の人材採用だけではなく、10年後の採用を視野に入れた人材確保が重要になります。優秀な人材を発見したら、相手の事情でその場で採用できなくても長期的な関係性を保持することで10年後に採用できる可能性が高まるからです。
そのためにはオウンドメディアリクルーティングのPDCAを回し、人材採用候補者との連絡を絶やさず、サイトを改善し続ける努力も重要と言えます。