自動車販売店業界は若者の車離れ、カーシェアリングの普及、買替えサイクルの長期化などを背景に新車販売台数が減少。経営環境の変化に晒されていると言われています。この変化対応策として「Web集客」に取り組む販売店が増加しています。ここでは自動車販売店がWeb集客に取り組むメリットと、その効果的な活用法を解説します。
自動車販売店業界の現状
自動車販売店(カーディーラー)を取り巻く経営環境は前述の変化に加え、近年は新車探しから購入手続きまでオンラインで完結するECサイトを開設する自動車販売店が現れ、ユーザの間で人気になっています。このことは家電販売、家具・インテリア販売、アパレル販売などの業界で進んでいるEC化の波が自動車販売の世界にも押し寄せてきたことを示しています。
では自動車販売は今後、ECサイトを窓口としたオンライン販売が主流になるのでしょうか。これに関しては自動車販売業界の識者の大半が否定的な見解を示しています。その理由は自動車が高額商品だからです。自動車は「実物を見て、触れて、試乗して」から買う消費者心理は今後も変わらないからです。
したがって実店舗を構え、営業社員が懇切丁寧に新車の説明をし、試乗できる自動車販売店の重要性は、今後も不変と見られています。しかし集客においては今日のインターネット時代に対応した新しい集客への取組が求められています。
自動車販売店のアナログ集客の問題点
自動車販売店業界の集客はこれまで、新聞折込みチラシ、ポスティング、店頭イベント・キャンペーンなどのアナログ集客が中心でした。ところがこうしたアナログ集客は現在、次の問題を抱えています。
新聞折込みチラシ、ポスティング
地域限定の新聞折込みチラシやポスティングは、地域のユーザにあまねくリーチできると言われてきました。ところが広告内容はユーザ属性不問の不特定多数向けなので、いずれの業界も実際のリーチは20%未満と言われています。
店頭イベント・キャンペーン
店頭イベント・キャンペーンはいずれの業界も、かつては集客の目玉の1つでした。しかし現在、
- ユーザは欲しい商品をWebサイトで探すので、店頭イベント・キャンペーン情報には反応しない
- 単発的な情報発信なので継続的な集客ができない
- 多大なコストが発生する
などにより、集客効果が薄れています。
自動車販売店のWebサイト集客の問題点
「インターネット時代」と言われる今日、Webサイトは企業の販促活動と集客の基幹ツールになっています。しかし、自動車販売店の中には、
- Webサイト開設の目的が曖昧
- ターゲットユーザが不明確
- コンテンツを定期的に更新していない
- コンテンツ作成をWebサイト制作会社に丸投げし、ユーザの情報ニーズに応えていない
などの会社が多く、「ユーザがアクセスしないWebサイト」になっているケースが珍しくないと言われています。
自動車販売店が他業界のようにWebサイトを販促活動と集客の基幹ツールとして活用するには、まずWebサイト開設の目的とターゲットユーザを明確化する必要があります。
自動車購入を検討しているユーザは、基本的に次の購買行動プロセスを経て購入に至ります。
第1段階ː関心
自動車を購入しようと思ったユーザが、車種や価格を調べる段階です。
この段階でユーザは人気車種、人気車種ランキング、最新車種などのレギュレーションサイト(まとめサイト)などにアクセスし、大まかな情報を収集します。
第2段階ː学習・絞込み
レギュレーションサイトで得た情報を基に、自分の所得で購入可能な車種を調べる段階です。
この段階でユーザはメーカーのWebサイト、車種別比較サイト、価格比較サイトなどにアクセスし、自分の所得で購入可能な車種候補の詳細情報や価格を調べ、購入車種の候補を絞ります。
第3段階ː購入
購入車種の候補を絞り込んだユーザは、この段階でその候補車種を販売している自宅周辺の複数の自動車販売店のWebサイトにアクセスします。そして実売価格、保証内容、自動車整備体制、オプション、自動車ローンの手続きサポート、アフターフォローなどの情報を比較・検討し、本命の販売店を決定します。
その上で自動車販売店を訪れ、価格を始めとする条件交渉を行い、納得すれば購入契約書にサインします。
自動車販売店業界のWeb広告の問題点
Web集客はWebサイトとWeb広告のセットが基本になっています。このうちWeb広告は、Webサイトの認知度向上とユーザをWebサイトへ誘導する役割を担っています。
ところが自動車販売店業界のWeb広告においては、
- 自動車購入の検討期間が3カ月以上と長く、「一度見た広告」や「クリックしただけの広告」は印象に残らない
- 車種数が多いので文字数の制限がある広告では、ユーザ個々のニーズにフィットした広告訴求ができない
- 「自動車購入を検討している人」ではなく「単なる車好き」の母数が大きいので広告費のコストパフォーマンが悪い
などの問題があります。
この問題を解決し、Web広告に成功するには、次の措置を講ずる必要があります。
- 購入検討期間中のユーザを追跡し、自店での購入に誘導する
- そのために自店が取り扱っている車種の中からターゲットユーザにフィットした車種を訴求する
- 「単なる車好き」を広告配信から排除し、広告のコストパフォーマンスを高める
自動車販売店に適したWeb広告法
そこで自動車販売店に適したWeb広告法として次が挙げられます。
(1) ダイナミックリターゲティング広告
ダイナミックリターゲティング広告とは、配信する広告がユーザごとにカスタマイズされるリターゲティング広告のことです。
その仕組みは次の通りです。
例えば、
- 自店のWebサイトにアクセスしたユーザAが取扱い車種一覧ページを閲覧
- その中からZ車種を選んでZ車種の詳細紹介ページへ移動
- しかし何のアクションも起こさずそのままサイトを離脱
- 「ユーザAがZ車種の詳細情報を閲覧したものの、そのままサイトを離脱」の閲覧履歴が広告配信媒体に送信される
- 広告配信媒体はこの閲覧履歴を基にZ車種の広告を作成
- ユーザAが他のWebサイトのコンテンツを閲覧すると、そのコンテンツにZ車種の広告を配信
同広告はこの手順で、ユーザごとにカスタマイズした広告を作成・配信する仕組みです。
なお、同広告の主な配信媒体には、
- Criteo……ビッグデータと独自のロジックによる広告配信媒体
- GDR(Google Dynamic Remarketing)……Google広告のダイナミックリターゲティング広告向け配信媒体
- RTB House……ポーランドの広告配信媒体
などがあります。
(2)リスティング広告
自動車販売店のWeb広告においては、Googleキーワード検索結果に連動して広告を配信するリスティング広告も効果的と言われています。
何故なら、自動車購入ニーズが顕在化しているターゲットユーザに広告訴求をしやすいからです。
ただしリスティング広告の成果を上げるためには、次に注意する必要があります。
クリック単価が本当に適切か
自動車販売店が取り扱う商品は競合が多いので、特に人気車種の場合は競合との広告枠の競争入札となり、必然的にクリック単価が高騰します。
これについては「自動入札にすればクリック単価の高騰を避けられる」と、自動入札を薦める広告代理店が多いようです。しかし自動入札には次のデメリットがあり、単価の高騰を避けられない可能性があります。
- 過去のコンバージョン数がない場合は入札価格の精度が低下
……コンバージョン数が少ないと正確な分析ができないため - アカウントデータの蓄積が不十分な場合は入札価格の調整が不安定になる
- 販売キャンペーン時の入札価格を解除しない
……過去のコンバージョン履歴を参考に自動入札単価が設定されるので、販売キャンペーンでコンバージョン数が急上昇した時は入札価格が高騰する。この入札価格を解除しないまま自動入札を継続すると通常時のクリック単価も販売キャンペーン時の入札価格が適用される
このためリスティング広告を活用する際は、広告運用の適切な管理が重要です。これを怠ると広告訴求効果はあっても高コストの広告法になるリスクがあります。
まとめ
Web集客は時代の趨勢から経営環境の変化に晒され、販売不振を余儀なくされている自動車販売店の活路を切り開く集客ツールになると見られています。このためWebサイトとWeb広告の活用法およびWebマーケティングを研究し、自社商圏に適したWebサイトとWeb広告の効果的な組合せで、集客力を再構築する時期に来ているものと思われます。